リングにかけろ

外径15mmの無垢の真鍮二重リング。
まぁ大半の人にとっては、「それが何か?」な話だと思いますが、これ、真鍮金具が好きなレザークラフターも、あまり見たことがないレアな金具だと思います。少なくとも、ネット上で、これと同じパーツを見た事がありません。

たいてい、このサイズの真鍮二重リングってのは、針金状の真鍮線をグルグルッと丸めてちょん切っただけの、色気も素っ気もないモノが大半なんですが、コイツは、こんな小さいサイズなのに、ちゃんと平押しされてて、しかも、オフセット加工まで付いてるというコダワリよう。

とある店先でコイツを見つけた時は、ちょっと小躍りしちゃったくらい、私にとってはカッコイイったらありゃしない金具なんです。

そんな訳で、このリングを、近々リリース予定の迷子札に繋げるリングにしようと考えていて、実際に、試作段階の迷子札にはこのリングを付けて、身近な方々にお配りしたワケです。

さて、それから何カ月か経って、ウロボロスクラフトを立ち上げる準備に追われていたある日の事、ショッキングな一報が入ってきました。

「ブッチ兄貴の迷子札が迷子になった!」

ブッチ兄貴の迷子札。見つけた方は御一報下さい。

聞くと、リング部分が伸びたか、隙間が広がったかで、迷子札が抜け落ちてしまったとの事。惚れたリングが原因で、そんな事になるとは、悲しいやら申し訳ないやら…。

実は、その前から、迷子札の事について、市場調査と称して、色んな飼い主さんに話を聞いていたのですが、中には「今まで3回作って3回とも失くしたわよ!」ってなツワモノもいたりして、どうやら“迷子札の迷子”は、世間では頻繁に起きている事らしいことがわかってきました。

「これはちゃんと原因と対策を考えなければ!」という訳で、今回、ちょっとした実験を行ってみましたので御紹介致します。

ちなみに、左から三つ目が、冒頭で紹介した真鍮二重リング

実験方法は単純明快。大きさも構造も違うリングを用意して、それを、丈夫な大きいリングとリングに繋げてから引っ張って、その強度を測ろうというもの。

まずは、一番左の一番小さい二重リング。小さいですが、リン青銅と呼ばれる、バネ性のある金属で、真鍮よりも強く、しかも、真鍮同様、味のある経年変化が楽しめるという、まさに、私が求めている特徴を備えたもので、「これは使えるハズだ!」と、大いに期待しつつ大量買いしたリングですが、果たして…。

「せーの…」

「…」
それなりの力を加えると、こんなに伸びちゃいました…。本来、このサイズの二重リングの中では、このリングはかなり強い部類に入るはずなんですが、こういう形で、いざ引っ張ってみると、思った以上に脆いものだと言う事がわかりました。
どんなに、強い金属だと言っても、やはり、物理的にある程度の大きさ・線径の太さがないと厳しいようです。
そう考えると、これと同じサイズで、しかも二重になってないリングが実際にキーホルダー等に使われていたりしますが、“外れて然るべし”だと思います。

次に試したのは、線径2.0㎜、外径10㎜の丸カン。

二重になってないので、割とあっさり伸びるかと思ったのですが、線径の太さが功を奏したのか、先ほどの二重リングよりもかなり粘りました。それでも、最終的には、力を込めて引っ張ると御覧のように外れました。

次は、冒頭で紹介した。私が惚れた真鍮二重リング。
今回の、ブッチ兄貴の迷子札迷子事件の原因になったと思われる張本人ですが、私としては、このリングのことを信用してあげたいし、この先もずっと使い続けたい。
この愛よ届け!

今、また一つ、恋が終わりました…。
あっさりとまでは言いませんが、それなりの力を加えたところで、一気に伸びてしまいました。
こんな姿、見たくはなかった…。

気を取り直して、次は外径20㎜、三角押しの真鍮二重リングを試してみます。
それなりに品揃えのあるパーツ屋さんで手に入るリングです。

指が痛くなるまで引っ張って、何とかここまで伸ばしたという感じです。かなり強度がある事がわかりました。サイズだけの問題ではなく、真鍮そのものの材質の違いも関係しているような気がします。

ラストは、一番小さい二重リングと同じリン青銅製の外径28㎜の二重リングです。

ビフォー&アフターが全く変わりません。思いっきり引っ張ると、わずかに伸びる手応えはあるのですが、その力を少しでも弱めると、バネが効いて元の状態に戻ります。これを人力で伸ばすには、刃牙クラスでないと無理だと思われます。

以上でテスト終了です。数値化したわけではないですが、実際に引っ張ってみて感じた感覚を基に、強度順に並べてみました。

テストの結果をもって、穴開きタイプの迷子札には、“線径2.0㎜、外径10㎜の丸カン”を介して、“外径20㎜、三角押しの真鍮二重リング”を接続したものを標準仕様とし、更に、サービス品として“リン青銅製の外径28㎜の二重リング”を付属する事にいたしました。要するに、今回の強度テストのトップ3を使用するという事です。

※追記(2018/3/8)現在は、更に強度の高い【外径12㎜・リン青銅製の二重リング】と【外径25㎜・真鍮製の二重リング】を接続したものを標準仕様としています(↓参考画像)。“リン青銅製の外径28㎜の二重リング”は付属しておりません。

さて、サービスで大きい二重リングを付属する事については、ちゃんとした理由があります。

犬の首輪に取り付けられたDカン(リードを繋ぐ金具)は、必然的に強度が必要ですので、必然的に太い線径の金具が使用されています。そこにリングを接続する場合、リングを大きく開く必要があるのですが、例えば、標準仕様の、“外径20㎜、三角押しの真鍮二重リング”を大きく(今回は4㎜)開くと、画像のように、少し隙間が開いたまま戻らなくなってしまいます。これは真鍮金具だけに限った話ではなく、バネ性がない金属(鉄、銅、ニッケル、ステンレス)に共通する避けようのない性質です。
リングが伸び切らなくても、隙間から迷子札が抜け落ちてしまう事が、“迷子札の迷子”に繋がる大きな要因のひとつです。

“隙間”を防ぐ方法は、できるだけ大きいリングを使う、もしくは、バネ性のある材質でできたリングを使うしかありません。そして、この二点をクリアするのが、サービス品の大きい二重リングです。ただし、いかんせん大きいリングですので、使用に抵抗のある方がいらっしゃるかもしれません。ですので、そこは各飼い主様の御判断で適宜、使って頂くという形でお願いしようかと思います。

迷子札の紛失に対しての補償ですが、無責任な言い方になってしまって申し訳ないのですが、残念ながらございません。
勿論、ある程度以上の耐久性と強度を持った製品をご用意させて頂きますが、その後のお取り扱い、管理は飼い主様側に委ねられることになります。

リングタイプの迷子札は、オーソドックスな形として昔から慣れ親しまれたスタイルのものですが、構造的にリード(の金具部分)やその他障害物との接触が多く、また、飼い主様の使用環境、取付方法によって、紛失のリスクは更に高くなってしまいます。
ですので、そのお取り扱いには充分御注意頂きますよう、よろしくお願い致します。

以上が、今回のリング強度テストの結果をふまえて導き出したひとつの解答です。

最後に…手前味噌にはなってしまいますが、首輪に直接ネジ止めするタイプのもの、ベース金具を使って固定するタイプのもの(価格はリングタイプのものと変わりません)に関しては、今のところ、外れたという経験、報告はございません。できれば、こちらのタイプを推奨致します。