針休め

レザークラフトの魅力。
一言で言い表せないほど、たくさんあると思いますが、“ツールの格好良さ”という、ひとつの回答に対して、異論のある方はいないと思います。
改めて考えると、レザークラフトほど、ツールがクローズアップされ、そしてまた、ツールそのものが絵になるクラフトジャンルはないかもしれません。

菱目打ち、革包丁、菱ギリ、ネジ稔、等々、ただ使えれば良いというものではなく、レザークラフターは、機能と美しさを併せ持つツールに出会う事を常に求めます。
そして、幸運にも、それらと運命的な出会いを果たしたクラフターは、そのツールに深く感情移入してしまい、そして、更にレザークラフトの深い沼にはまっていくのです。

しかし、そんな様々な用途の美しいレザークラフトツールが存在する中で、ぽっかりと開いたエアポケットのように、なぜかあまり注目されないツールが存在します。
それがニードルマインダー、いわゆる「針休め」です。
地味ですが、必要不可欠なツールのひとつです。
針を探している時間ほど、無益でもったいないものはありません。

大半のレザークラフターは、既にスポンジやコルク等、何かしらの物を「針休め」にしていると思われますが、そこにこだわる方は、実際には、それほどは多くないように思われます。

レザークラフトに用いる針は、テーパーがついて細くはなっているものの、先端が全くと言っていいほど尖っていない為、「突き刺す」という機能が基本的にありません。
ここが、裁縫用のそれとは決定的に異なっている点であり、突き刺す事を前提とした「針休め」が存在しずらい大きな要因となっています。

と、ここまで、わかった風に偉そうな事を書いてきましたが、実は、かく言う私も、割と最近まで、ただのスポンジ片に、適当に針をブッ刺しているだけの、しょうもない男でした(苦笑)

さて、そんなしょうもない男が、新ブランド“ウロボロスクラフト”を新たに立ち上げるべく、“コンチョの使い方”について今一度、改めて考えていた時の事です。
新たに考えたアイデアの中のひとつに、“コンチョにマグネットを取り付けられるようにするオプション”というものがありました。

このオプション商品に関しては、最初は冷蔵庫にメモを貼り付けるくらいの用途しかないと思っていたのですが、ある日、セレンディピティな出来事が起きます。

セレンディピティ(serendipity)

素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること。
平たく言うと、ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取ることである。wikipedia

それはまさしく、神の…針のイタズラとでも言うべき出来事でした。
マグネットを取り付けたコンチョに、机の上に無造作に置かれていた針がカチッと吸い寄せられてくっ付いたのです。
コンチョがニードルマインダーになった瞬間でもありました。

ゼロイチになりさえすれば、あとはその数字を増やしていくのは割と簡単な仕事です。
コンチョをニードルマインダーとして使いやすくするためのアイデアは、すぐに、実際のカタチとなっていきました。

幸い、当工房の中には、色々な素材が転がっていましたので、その中のひとつ、釣竿のグリップに使う鹿の角を本体部分として使う事は、すぐに決まりましたし、マグネットに関しても、ネットを使って、都合の良い大きさ・厚さ・磁力の強さの物をすぐに見つける事ができました。

そんな訳で、晴れてここに、ウロボロスクラフトのオリジナル商品“ニードルマインダー01(ゼロワン)”が誕生しました。
ちなみに、なぜ“ゼロワン”なのか?

コンチョを○、針を|として、その二つが磁石でくっ付くから…
ゼロがイチになる偶然で生まれたツールだから…
懐かしい某ヒーローのネーミングをマネしたかったから…

です。


さて、コンチョをニードルマインダーにした例が、過去にあったかどうか?
気になったので、ググッてみる事にしました。
正直なところ、「あるだろう」と思って検索してみた結果…意外にも、ひとつもヒットしませんでした。
ネットが世界全てのありとあらゆる情報を網羅してるとは全く思いませんが、少なくとも鹿の角とコンチョで作った“ニードルマインダー01”は、ウロボロスクラフトがオリジナルであると、ここで宣言させて頂きます。

肝心の使用感についてですが、手前味噌になってしまって、たいへん恐縮ですが、すこぶる快適です。
このゼロワンを使用するようになってからは、「針を探す」という無益な時間は皆無となりました。

まず、針を「刺す」というアクションが不要で、ただ、それに適当に近付けるだけで、針はコンチョに吸着、保持されますし、針を外す際も、コンチョ(非磁性の真鍮製)を間に挟んでいることによって、程良い力加減で指先に戻ってきてくれます。
また、コンチョがドーム型なので、針のどこかしらの部分が必ず宙に浮いているという点も大きなポイントです。

とにかく、今の私にとって、無くてはならないツールとなっております。
(ちなみに、私自身は、もっと大きな鹿の角を使用しております。LEATHER CRAFTページのトップ画像がそれです。)

別に、この“ゼロワン”に特化した話ではなく、ニードルマインダーというツールは、レザークラフトのスタンダードとなり得るツールだと思います。
そのちょっとしたキッカケにでもなれば、生みの親として、これほど光栄な事はありません。

さて、この“ニードルマインダー01”ですが、間もなく新規開店するオンラインショッピングサイトのオープニングキャンペーンの一環として、オーダーメイドコンチョを御注文頂いた方を対象に、もれなくプレゼントしようかと考えております。

是非ともこの機会に、ニードルマインダー用として、オーダーメイドコンチョを作ってみては如何でしょうか?